最近、ウォーキングの効用については、様々な疾患に対してのエビデンスが多く発表されていますが今回は、13種類ものがんの予防につながることがわかった。

「心臓にも認知症にも、そしてがんにも効果的であり、かつ手軽にできる早歩きをもっともっと多くの人に広めるべきであると!」「但し、膝や股関節に負担のかけない正しい歩き方を!」

以下2016年5月16日 米国国立衛生研究所より抜粋

ウォーキングを毎日している人はがんリスクが20%低下

ウォーキングなどの運動を習慣として行うことで、肥満を防ぐことができ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防や改善に役立つことは広く知られている。これらに加えて、運動にはがんの予防効果もある。
運動のがん予防効果は31種類のがんに及ぶことが、144万人を対象とした大規模な研究で明らかになった。研究は米国立がん研究所(NCI)、米国立衛生研究所(NIH)、米国がん学会(ACS)などの研究チームによるもので、「米国医師会雑誌(JAMA)内科学」に発表された。
研究チームは、米国や欧州で行われた12件の観察研究をもとに、144万人の19~98歳(年齢の中央値は59歳)の男女を対象に、生活習慣とがんの発症について11年間にわたった調査した。期間中に18万6,932件のがんが確認された。

解析した結果、ウォーキングなどの活発な運動を週に5日以上行っている人では、ほとんど運動しない人に比べ、がんの発症リスクが20%低下することが明らかになった。
運動を習慣として行うことで、▽食道腺がん 42%、▽肝臓がん 27%、▽肺がん 26%、▽腎臓がん 23%、▽胃噴門がん 22%、▽子宮体がん 21%、▽骨髄性白血病 20%、▽骨髄腫 17%、▽結腸がん 16%、▽頭頸部がん 15%、▽直腸がん 13%、▽膀胱がん 13%、▽乳がん 10%――がんの発症リスクがそれぞれ低下することが示された。
「余暇時間に座ったまま過ごすのをやめて、立ち上がってウォーキングなどの運動することが大切です。運動の習慣をもっている人は、さまざまな部位のがんの発症リスクを下げられることが示されました。運動には肥満や心臓病を防止する効果もあります。保健指導に従事している専門家は、運動をする習慣のない人や肥満の人に対し、健康なライフスタイルとして運動をはじめることを奨励するべきです」と、米国立がん研究所のスティーブン ムーア氏は言う。

ウォーキングががんリスクを低下させるメカニズム
ウォーキングなどの運動ががんの発症リスクを低下させるメカニズムについての研究も進んでいる。がんの発症リスクが高くなるメカニズムのひとつに、肥満や運動不足などによって引き起こされる「高インスリン血症」が影響していると考えられている。
「インスリン抵抗性」(インスリンの作用低下)による高血糖を抑えるために、インスリン分泌の過剰により引き起こされるのが高インスリン血症だ。この状態では、インスリン抵抗性をインスリンの量でカバーしているため血糖値はそれほど高くならないが、高血圧や動脈硬化などが進行しやすくなる。さらに、高インスリン血症が続くとインスリン抵抗性がさらに強まるという悪循環に陥り、やがて血糖値が上昇し2型糖尿病を発症する。
また、血液中のインスリンが多過ぎると、細胞増殖、成長促進など、さまざまな働きをするIGF(インスリン様成長因子)という物質の働きが活発になり、IGFに結合してその働きを抑えるタンパク質の産生が抑制されてしまう。さらには細胞から分泌される「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質が慢性炎症を引き起こし、がん細胞がさらに増殖しやすくなる。
運動には免疫機能を改善したり、体脂肪を減らして、女性ホルモンであるエストロゲンを減らしたり、男性ホルモンであるテストステロンを増やす作用もある。これらの性ホルモンの分泌が乱れるとがん細胞の発育が促されるが、運動をして体脂肪を減らすと、これらのホルモンの分泌が調整され発がんリスクが下がる。
さらには運動には、がんの発生を誘発する「活性酸素」や「フリーラジカル」の産生を減らし、がん細胞の発生や老化を抑制する効果がある。